はじまりは、三年前のいま。
あの日の帰り道、ぼくらは変わってしまった。

何も変わらない事だけが大事じゃない。

そんな言葉が嘘だって、みんな思いながら・・。




































夕 方 セ ピ ア の 帰 り 道











































まぎちゃん、いい加減漢字が書けるようになりなさい。
あなたはもう高校生なんだから。

担任からの電話の後、またいつものように母親に説教をされた。
そんな事くらい解っている。ここは日本で、自分は高校生。
確かに昔は外国に住んでいた帰国子女で。
最近までみんな気を使って、ゆっくり覚えれば良いんだから、と言ってくれた。
でももう違う。高校生、でしかも今年で卒業なんてもう立派な大人にさしかかっている。
覚えなきゃ行けない。かけなきゃいけない。
もう外国よりも、日本にいる方が長いんだから。
そんな事、解ってる。解ってるよ・・。
でも私は、漢字を覚えることが出来ない。

あの優しい声が、綺麗な指が、私のノートの線をなぞることが無くなった今は。
私が、漢字を覚えることはない・・。


「たまちゃんって髪綺麗だねー」

放課後、夕暮れの教室。数人の女子生徒が集まって話していた。
その中で、宮井白珠も笑い合っていた。
一人の女子生徒が、白珠の綺麗にすいて二つにリボンで結ばれた髪をなで始める。

「うん。髪だけは綺麗にしときなさいってお母さんに言われてたから」

白珠は微笑んで、そう答えた。
髪は女の命っていうじゃない?って昔から言ってた。

「あーやっばい。私塾の時間だ!」

不意にまた別の女子生徒が壁に掛けてある時計を見て叫んだ。
その声で、他の生徒も時計を見る。

「あ、本当だ。もうこんな時間?」

「じゃうちも帰るわー」

「塾さぼろっかなぁ」

口々に何かを言いながらも、それぞれ鞄を持って立ち上がる。
白珠は特に用事もないけど、みんなを見送るために立ち上がった。

「またね」

同じように手を振られて、同じように手を振り替えした。
一人、一人とまたいなくなり、等々教室には自分一人だけになってしまった。
白珠は、私も帰ろうかな、と呟いて自分の鞄を手に取った。
教室のドアに向かって歩くと、ドアの横に人影を見つける。
セミロングの茶色っぽい髪。すぐに誰か解った。

「まぎ?」

声をかけると、その人物はこちらをゆっくりと振り返った。
ピンクのリボンの付いたヘアピンが、夕日に反射してキラキラ光っていた。
野々斗まぎは白珠を見つけると、その無表情な顔を崩して小さく微笑んだ。

「・・・待ってたの?」

白珠の言葉に、うん、とまぎは小さく頷いた。
人となれ合うことが苦手なまぎは、よくこうして外で待っている事が多かった。
友達大好きな白珠は、入ればいいのに、といつも思っていた。
でも待っていてくれるのが嬉しくて、白珠も微笑んだ。

「帰ろっか」


夕暮れ色に染まった道を、どうでもいい話をしながら歩いていた。
話、といってもほとんど一方的に白珠が喋っているのだが。
まぎは適度な相槌を打ちながらも聞いていた。
時たま、どうしてまぎは自分と一緒にいるのだろう、と思う時がある。
父親が外人らしく、綺麗な顔のまぎはやっぱり近寄りがたいという印象を植え付ける。
そんなの気にせず話しかけた白珠だったからだろうか。
でもなんだか違うような気がした。そんな理由じゃ、無いような気がした。
これはただの、憶測なんだけど。

そうだ、そういえばあの時もこんな事を考えていたような気がする。
あの時もこんな風にまぎは寂しそうに微笑んで言ったんだっけ。

『漢字をね、覚えようと思ったの』

志緒がね・・志緒が教えてくれるって―――――――。


夕方セピアの帰り道。
私はまだよく分かっていなかったのかも知れない。
まぎ、ごめんね?

でも私は、 あの人の背中を追いかけてしまった。

ただ、憎かったのかも知れない。

綺麗で明るすぎる世界も、幸せそうな横顔も、
何一つ満足に叶えられない自分も、そんな無力さも、
何が違うのかという決して返る事のない問も、この手が汚れていると感じるのだって
全部全部、憎くて溜まらなくて。
でもその笑顔に、惹かれていくのは確かで。

そんなジレンマと、戦っていた。


本当にいつみても何でここは気が狂いそうに白いんだろう。
現在の状況と全く関係無いことを考えながら、稟音碧木は背もたれのない椅子の上にいた。
目の前に置かれた白いシーツのベッドには、綺井羅弥々が眠っている。
その長い睫毛をぼーっと眺めていた。

放課後、碧木は学級委員だからと言って教室に残った。
資料やらなんやらを担任に頼まれて作っていたのだ。
涼しい顔をしてやっていたけど、本当は早く帰りたくて仕方がなかった。
何故俺がこんな事をせねばならんのだ、と御経のように頭の中で唱えていた。
こんな事をやって、何が報われるわけでもないというのに。

そこへ、帰ったはずの弥々が現れた。
忘れ物か、と聞いたら、碧木と一緒に帰ろうと思って、と笑った。
女子がきゃあきゃあ騒ぐようなアイドルスマイルだった。
でも碧木は、正直そういうのってうざったい、と感じてしまう
自分の人間性の低さがまた更にうざったくて、苛立って。
それを隠すように苦笑を浮かべた。ありがとう、と言った。
そんなこと、微塵も感じてなかったのに。

くたばっちまえ、と思った。
そんなの自分に言った言葉だった。
だけど目の前の弥々が、不意に倒れたから、また自分を呪うハメになった。


相変わらず死人みたいな白い顔をして、保健室のベッドの上、弥々は眠っていた。
中1の時からのつきあいだから、弥々の身体が弱いことくらい知ってるし、
もう驚きもしない。
そして更にちょっと非道な人間だから、心配もしない。
それでもこいつの目が覚めた時には、よかった、と心底ほっとしたような顔を見せつけてやるんだろう。
そしてそれを見てこいつもまた、ごめんね、と悲しそうな横顔で謝るのだろう。

「ばっかじゃねえの」

碧木は眠っている弥々を眼鏡越しに軽蔑したような目で睨んで呟いた。
今の二人に似合うのはその言葉だね、と本当に心底言えると思った。
でもそれは言えないとも思った。だって弥々は、信じ切っているから。
本当に・・そうだから。
それを壊したいと思う自分もどこかに入るのだけれど。
両手を力強く握り締めた・・瞬間、不意に保健室のドアが勢いよく開いたのだった。

ゆっくりと後ろを振り返る。大体誰かとか見当は付いていた。
だってそうだ、自分が連絡したのだから。

「碧木先輩・・弥々は・・」

浅い呼吸を繰り返しながら青い顔で立っていたのは、三ツ井慕丹だった。
慕丹は一つ年下の高2で弥々の彼女だ。
碧木は椅子から立ち上がって、弥々を見た。慕丹もそちらに近付く。

「・・良かったぁ・・」

弥々の死人のような顔を見て慕丹はほっとしたように呟いた。
碧木には、死人のように見えるのに、慕丹には平気そうに見えたらしい。
慕丹は碧木をその年に似合わない大人っぽい仕草で見上げて微笑んだ。

「ありがとうございました・・連絡くれて」

家にいたであろう慕丹は、すぐに飛んできた。
いつも綺麗に一つにまとめている髪は、今はぐちゃぐちゃだった。
その賢明さに嫌気が差して、碧木は椅子の横に置いた鞄をとった。

「じゃあ俺、帰るから。後で先生来ると思う」

小さく微笑んで、はい、と頷く慕丹に背を向けて碧木は保健室を出た。
扉を閉める頃には、笑顔は完全に消え去っていた。
碧木は小さく溜息を零して、夕暮れの廊下を歩き出した。


窓の透明に遮られて、夜の空がとても窮屈そうに見えた。
星なんてみえない空を見ている自分が無性にうざったくて
まぎは窓ガラスをたたき割りたい衝動に駆られた。

「・・っ」

唇を強く強く噛み締めて、まぎは勢いよくカーテンを引いた。

「かかないよ・・」

カーテンを握りしめて、消えそうな声で呟いた。
胸がずきずき痛む度に、泣き出しそうになってしまう。

「・・・書けないよ・・・」

それは、悲痛な叫びにしか聞こえなかった。

今君はどこにいるの?
私はもう君を諦めてしまわなければならないの?

きっとこれは、君の呪いなんだね・・志緒・・・。


夢で会った事は一度もなかった。
いつも見る夢は、真っ暗で、とにかく落ちて行きそうな闇だった。

でもその日の夢には、初めて人間が登場した。

「まぎ」

いつものように私の名前を呼ぶのは、綺麗な髪をなびかせた白珠の姿だった。
制服姿の白珠は、本当にいつものように微笑んでこちらを見ている。

「まぎ、無理しなくてもいいからね」

白珠が笑った。
どうしてこの人は、いつも私のほしい言葉をくれるんだろう。
夢の中なのに、泣きそうになってしまった。
泣かないように唇をかみしめていると、不意に白珠の姿がぼやけて見えた。
それが段々水に溶かすように薄くなっていって、またはっきりとしていった。

「・・志緒?」

はっきりとしていくと、そこに立っているのは白珠ではない人物だった。
茶色っぽい髪、優しげでおっきな目。それは紛れもなく志緒だった。
私は眼を見開いて、志緒を凝視する。

「まぎ!」

いつものように、私の名前を呼ぶ。
私は嬉しさで本当に泣きそうになった。

でも次の瞬間、不意に嫌気がさした。

「私は白珠と志緒を重ねているの?」

それが好きだって言えるの?

いつの間にか、手にはガラスの瓶が持たされていた。
私は迷わずにそれを志緒に投げつけた。
バリーン、と冷たい音を立ててガラスの瓶は志緒と共に砕け散った。
真っ赤な跡を残して。


「っ・・・!!!」

飛び起きると、そこはいつもの部屋だった。
まぎは額の汗を拭って、乱れた呼吸を整えようと深呼吸をした。

「・・夢・・か」

ほっとしたような、なんだか複雑な気分のままそう呟いて
まぎはまたベッドに寝転がった。窓の外はまだ少し暗かった。
もう一度寝れるだろうか、そんなことを考えながらまぎは天井を仰いだ。

「まぎ・・無理しなきゃだめなんだよ・・?」

自分に言い聞かせるように呟いて、まぎは眼を閉じたのだった。


『こい』っていうのは顔が『鯉』になっちゃう病気なんだってさ。
酷い奴は一生治らないらしい。

そう言って悲しそうに笑った横顔を見た時からだろうか。
俺の顔が『鯉』になったのは。


「たーまーきーっ♪」

相変わらずの、憂鬱な朝の登校をしていた碧木は不意に後ろから大声で呼ばれて
その不機嫌そのものの顔を呼んだ相手に向けた。
相手は、にこにこ笑いながらこちらに走ってくる。
碧木は眼鏡の向こうからその金色の髪の毛を捉えた瞬間にまた前を向いて溜息を零した。

「HEY!碧木♪今日も可愛いネ!」

隣に並ばれてそのいかにも外人です!という整った顔を歪ませた。
碧木はその顔を見もせずに、男に可愛いと言われても嬉しくない、と切った。
この少し片言の外人は、どっかから留学してきたらしいラス・ギルト。
1年の時からやたらと碧木にくっついて回り、好きだ、だが断る、というやりとりを何百と繰り返してきた相手だった。
ラスは当たり前のように碧木の横を歩きながら、べたべたと髪やら腕やらを触ってくる。
最初の頃は本気で怒って怒鳴り散らしていたが、もう慣れてしまった。

「・・・碧木、何か疲れてる?」

不意に真面目な声を出したラスを碧木は眉間に皺を寄せて見上げた。
ラスは至って真面目な顔をしていた。ラスの真面目な顔を見たのは初めてのような気がして、
何だか笑ってしまいそうになった。
しかし、碧木はわざとらしく目を逸らしてただ苦笑を零した。

「お前だったら良かったのにな」

本当に、とそう呟いて碧木は少し早足で歩き出した。
その言葉の意味が分からず不思議そうな顔をしながらも、ラスは碧木を追いかけたのだった。


まぎ、私ね好きな人がいるの。
そんなこと、言われなくても知っていた。
だから、そうなんだ、って笑った。
でもね、それは絶対叶うことはないの。
それも、知ってた。

知ってたよ。だって私も同じだから。


「あれーまぎ、何かお弁当違くない?」

お昼休み、まぎは白珠と弁当を広げていた。
白珠は、いつも綺麗な卵焼きやらが入っていたまぎの弁当箱を見て首を傾げた。
今日のは、焦げている、なんだか分からないのが詰まっていた。

「・・お母さんが、・・」

そこまで言ってまぎは困ったような顔をした。
表情の乏しいまぎだが、白珠にはそれが困っている顔だと分かった。
白珠は苦笑を零して、そっか、といった。
そして女子高生にしては少し大きすぎる弁当箱をまぎに傾けて見せた。

「じゃ、私の食べても良いからね!」

白珠はにっこりと微笑んでそう言った。
まぎは驚いたように白珠の顔を見た後、薄い微笑みを浮かべた。
そして箸で白珠の弁当箱から一つ、プチトマトを取った後

「これだけでいい・・」

そう呟いて、口に含んだ。
そんなまぎを見て白珠はくすくす笑いながら、そんなのまぎだって詰められるじゃん、と言ったのだった。


日記帳というものを、中学の時つけていた。
それは未だに続いているけれど、相変わらずひらがなだらけだった。

「普通に漢字が書けるようになるまで弁当は作らないからね」

そんなの、当たり前の事だよ。
お母さん、今まで有り難う・・私料理下手だけど。

でも、ね。

私一生自分の弁当は自分で詰める事になると思う。


「・・碧木、碧木!」

不意に後ろから声を掛けられた。
不意に、っていうか多分気付いてなかっただけだろうけど。
碧木はゆっくりと振り返った。振り返らなくても、誰だか分かってるけど。

「・・・弥々」

名前だけ呼んで、どうした?、というような顔をした。
弥々は走ってきたのか、乱れた呼吸を繰り返していた。

「碧木・・昨日、ごめんね・・大丈夫だと思ったんだけど・・」

泣きそうな声を弥々が出した。
こういう時の弥々は、狡いと思う。むかついてるのに、拒むことができない。
碧木は心とは裏腹の笑みを浮かべて、弥々の頭を軽く撫でた。

「別に気にすんなって、それより今は大丈夫なわけ?」

碧木の言葉に、弥々は嬉しそうな笑みを浮かべて大きく頷いた。
分かってる、分かってる、こういう反応するって分かっててやってるんだ。

「あんまり走るとまた倒れるぞ」


幸せの定義だとかいうものを、いつから見失ってしまったんだろう。
小さな頃は、まだはっきりと分かっていた。
何をすれば楽しくて、何をすれば悲しいのか。
・・いや、今でもちゃんと分かっているはずなんだ。
なのにどうして、逆のことをしてしまっているんだろう・・?


「碧木ーっ!」

放課後、委員会が終わった後教室に戻ろうと廊下をふらふら歩いているとまたラスが後ろから走ってきた。
振り返る気力もなければ、返事をする気力もなかった。
なんだか無性にけだるかった。

「お疲れ様ー一緒に帰ろ・・」

隣に並んだラスが言いかけて、不意に口をつぐんだ。
碧木は立ち止まって、目だけでちらりとラスを見た。
小さな頃は、こんな風にストレートに言えてたのに。

「碧木・・、顔がザンネン・・」

ラスが不安げな声を出した。
日本語の文法的に間違ってる・・いや、あってるのかも知れない。
もうどうでもいいや、疲れた。
碧木は無言でラスの胸辺りに両手をおき、そのまま押し倒した。

「!?碧木!?」

二人の体が冷たい音を立てて廊下に崩れ落ちた。
ラスが驚きの声を出し、目を見開いた。
碧木はラスの上に乗っかったまま苦笑を零した。

「・・もう疲れた」

もはやそれしか、出ないような気がした。

とても自己中な人間だ、なんて自分が一番よく分かってる。
解りすぎるくらい解っていて、もうこれ以上誰も理解出来ないだろうという所まで解ってやった。
だから、今度はそんな自分を解ってやれる番だ。

ラスが、やめろ、と叫んだ気がした。
最早それも遠くで聞こえていた。


「わっ・・ごめんなさい!」

帰ろうとした所教師に捕まって手伝いをさせられるハメになった白珠は大量の荷物を持って資料室に向かっていた。
高く積み上がった荷物を抱えていたため視界は悪く、案の定人にぶつかってしまった。
崩れ落ちた体を起こしながら慌てて頭を下げて謝ると、相手も荷物をどけながら起き上がり微笑んだ。

「こちらこそごめんね・・俺もぼーっとしてたから」

聞こえてきた声に、白珠は恐る恐る顔を上げた。
そこには、荷物に埋もれた弥々がいた。白珠は一瞬時を奪われ、それを自分で打ち消すように荷物を拾い始めた。

「あ、宮井さんだったんだ・・」

荷物を拾う横顔を見て、弥々が呟いた。
覚えていてくれたんだ、と幸せな気分になるが、同じクラスだから当たり前だろうとまた自分を罵った。

「うん・・先生に頼まれちゃって」

やんなっちゃうよねぇ、何て笑い飛ばしながらも白珠は弥々の表情を伺っていた。
近いな、こんな近いのきっと初めてだろう、と。

「俺も手伝うよ」

白珠はそう言って自分の周りに散らばったおそらく何かの資料であろう紙を拾い集め、段ボール箱に入れていった。
そんないいよ、と喉まで出かかったが白珠は小さく微笑んで、ありがとう、と言った。
何がいけないのだろう、好きな人と一緒に居ることを一分一秒でも望むことの、何がいけないのだろう。
例えこの人に思い人がいるって知っていても
止めることが出来ないから。

「本当に、ありがとうね」

こんな純粋な気持ちを抱く私を、誰が悪魔と呼ぶのだろう。

知っている。
この人が私のじゃないことを。
この人が、あの子と付き合っているのを。

知っている。
苦笑する

知っている。
でも諦められない


何で、何で?
なんで、この人じゃなきゃ駄目なの?

何度も聞いた。
何度も何度も。

この人じゃなくても、私なら・・私なら・・なのに。

それが恋というのだと
柄にもなくセンチメンタルに嗤ったのだった。


「・・・はあ」

深い深い、海よりも深い溜息を零して碧木はバス停のベンチに崩れるように座り込んだ。
今、何か言葉をかけてやるよという奴が現れたら是非お前は馬鹿かと罵って欲しいと思った。
あいつ傷付いた顔してたな、と先ほどのラスの顔を思い浮かべる。
いつも楽しそうににこにこ笑ってはしゃぎ回ってたラスの、傷付いた顔を見るのは初めてだった。

「・・まあ、当たり前か・・・」

苦笑、出来なかった。
傷付いてる、なんて自分だってそうだ。
もうぼろぼろだ。傷付いて傷付けて、残るものは生々しい痕。
減っていくばかりだ。
何もかも。

これからどうすれば、なんて考えられなかった。
ただ、オレンジ色の空をぼうっと見上げるだけだった・・。


「おはよー」

少しはしゃいだ声が、まぎを後ろから呼んだ。
まぎは振り返ってそれが白珠だと分かると微笑んで、おはよう、と言った。
スキップ混じりのように近づき、白珠はまぎの横に並んだ。

「何か言い事有った?」

まぎはそう聞いた。顔に、聞いて聞いて、と書いてあったような気がしたからだ。
白珠は、分かるー?、と嬉しそうにはしゃいだ。
そんな白珠は、正直可愛いと思う。

「あのねえ、昨日弥々君と話しちゃったー」

白珠が、満面の笑みで言う。
ああ、そうか。
まぎは引きつりそうな笑みを無理矢理楽しそうな色に染めて見せた。

「そうなんだ・・良かった、ね」

大丈夫大丈夫、ちゃんと笑えている。
まぎは言い聞かせながらも、少し俯いたのだった。


みんな、報われない恋をしているのかもしれない。
みんな、同じように泣きそうになっているのかも知れない。

まぎは窓の外を、机に肘をついてぼんやりと見ていた。
私は、一体白珠に何を求めているんだろう。
ただ、友達じゃない。ただ・・の、友達じゃない。
どんなにそう言い聞かせようとしても、否定し出す自分が居る。
それが、どういう意味になるのか、考えたくも無かった。

「・・はあ」

そんなモヤモヤした訳分からない気持ちは、溜息と一緒に出て行ってしまえ。
そう思った。切実に、そう思った。


まぎ、まぎっ!


気付いたらいつも、隣にいたのは白珠だった。
悲しいときも楽しいときも、一緒に過ごしてくれたのは白珠だった。
与えられたものなんて、数え切れないほど有る。
だからたまに不安になる。
私は、白珠に何かしてあげているのだろうかと。
白珠は自分以外の人間と、沢山付き合っている。
それは、明るくて優しい白珠だから、自然と人が集まってくるから。
自分は?
私は全く逆だ。暗くて、優しくもない非情な人間。
それ故に、友達、と呼べるのは極々僅かな人間だ。
そんな私と、どうして白珠は付き合ってくれているんだろう、と不安になる。
まぎが放っておけないから、と言ってくれている内は安心だけれど。
もしも突然、白珠にまで突き放されたらどうなるんだろう。
私は、いない。
他には、いない。

そんな事を思いながら、まぎは一人でとぼとぼと返っていた。
白珠は何か用事があるとかで、今日は一人だ。
今まで俯いていたが、ふ、と顔を上げるとそこにはバス停にぼーっと座るラスの姿があった。
ラスとは同じクラスだが、実は外国に住んでいた頃からの知り合いだったりする。
偶然的に近所に住んでいて、偶然的に再開した。
向こうは運命だって騒いだけど、こちらは適当にあしらってしまった。

「・・・あ」

思わず零してしまうと、向こうも顔を上げてちょっと驚いたような顔になる。
そして、・・あ、と同じように零した。
それから、どうしようか迷ったが、まぎは小さく会釈してラスの横に座った。
別に、バスに乗らなくても家には帰れるが、何となく同じような顔のラスが少し気になったからだ。

「・・何か元気ないネ」

また少し俯いたラスが、自分も元気なさげな声で呟いた。
まぎは苦笑を零して、あんたもね、と言った。
それから暫く沈黙があった。
暫く、といってもほんの数秒だけれど、なんだかとても長い合間に感じた。
それは、お互いに。

「何で落ち込んでるの」

それはまるで自分にいうかのように、呟いたのだった。
まぎだってきっと、オウム返しされたら答えられないくせに。
でも、聞いてしまった。

「・・んー・・」

ラスは俯いたまま考えるような声を出し、少しだけ顔を上げてまぎを見た。
いつも煩いくらい元気なラスの表情は、ダシを全部抜いてしまった鰹節のように味気なかった。
こんなの、ラスじゃない、と言うように。
でもそれは、間違いの無くラスだった。

「碧木の・・事なんだけど」

碧木、の名前を聞いてまぎは、ああ、と零した。
ラスが、稟音碧木の事を本気で好きだという事は、まぎはもちろん知っていた。
雰囲気で分かるし、本人からも聞いていた。
別にそんなのまぎは気にせず、そう頑張れば、という程度にしか返していなかった。
毎回ふられているようだけれど、今度はよっぽどの事があったのだろうか。

「何?」

まぎは特に何も考えずにラスを見て小首を傾げた。
ラスは俯いたまま、苦笑を零し

「碧木も苦しそうだなって」

小さな小さな声で、そう呟いたのだった。

酷く悲しい横顔だった。
そんな顔をどこかで見たような気がする。どこだったか、なんて思い出したくもないけれど。

「・・碧木も、って?」

意地悪な質問だ、と自分で思いながら聞いてみた。
ラスは案の定苦笑を浮かべる。
どうせ自分が認めたくないだけだ。
みんなみんな幸せに生きてるんだ、って思いたいだけだ。
そう、みんな苦しいのに。

「なんか出来たのかなぁ・・」

譫言のようにラスが呟く。
見上げる先は、ただのオレンジ。
出来たはずだった。私だって、そうだ。

「出来ないから苦しいんでしょ」

後悔っていうのは、終わってしまったから後悔なんだ。

今はオレンジが、セピアにみえる。


辺りはすっかりオレンジ色に染まっていた。
今日はいつもまぎと帰る時間より少しばかり遅い。
ようやく学校から解放されて、白珠は早く帰ろうと早足に歩いていた。

「宮井先輩!」

突然後ろから声をかけられて、白珠は振り返った。
そこには、慕丹が笑顔で立っていた。
綺麗な長い髪の、ポニーテール。華奢な体に白い肌。
目を見開いて立っていた白珠は、数秒そんな慕丹の容姿を見た後、微笑みを浮かべた。

「三ツ井さん・・」

自分的には、三ツ井さん!、と発音したつもりなのに声は自然と暗くなる。
そんなの、当たり前だ。明るく楽しく振るまえと言う方が無理だ。
この女は所謂恋敵。
同じ立場だったら、こいつがいなくなれば、と誰しもが思う相手だ。
でも白珠は、そんな心を抱く自分を許せなかった。

「あの、弥々が・・、あ。弥々先輩がこれ渡しててくれって」

弥々が、と言いかけた慕丹に果てしない嫉妬を感じた。
顔に出ないように両手を握りしめる。
私だって呼びたいよ、弥々って。
そんな心情の白珠を余所に、慕丹は鞄からピンク色の小さな筒状のものを取り出して白珠の前に差し出した。

「先輩のでしょ?」

それは、リップだった。
昨日、弥々が拾ったのだろう。多分、荷物を一緒に運んだ後。
白珠は握りしめていた手の、片方の力をふっと抜いて慕丹の細い指に摘まれたリップを取った。

「うん、ありがとう・・って言っといて」

満面の笑みで言った。
涙が出そうだった。
ありがとう、ありがとう、弥々君。でもコレね、私のじゃないの。
でもあなたが、私のだろうって拾ってくれた物なら、きっと私の物。
あなたの中に微量にいる、宮井白珠のもの。
手は震えていた。白珠はそれをポケットに大事にしまって踵を帰した。
一刻も早くその場を立ち去りたかった。
慕丹の可愛い顔なんか見たくもなかった。
あ、と声を上げる慕丹なんか無視して早足で歩く校門を出て道路の横の歩道を歩き始める。
ついてくるなついてくるな、頭の中で叫んでいた。
先輩待って、と聞こえたような気がした。
次の瞬間飛び込んできたのは、何かが無惨に壊れる音だった。


自分の手を、綺麗だと思った事は今までに一度もない。
かといって、汚いと思った事だってない。
そんなの、気に止めなくても他の考えなきゃいけない事、いっぱいあったから。

でも今は、考えてしまうのだ。
私の今組まれている手は、綺麗なのだろうか汚いのだろうか。
無事を願いながらも、死んでしまえば、と考える私の心は、手は。

綺麗?



「・・っ、慕丹はっ・・?」

不意に声が飛び込んできて、白珠は顔を上げた。
そこには、青ざめた顔の弥々が立っていた。
息が荒い。走ってきたのだろう。
白珠はその愛しい人の顔を眺めながらも、無理に笑ってみた。

「今はまだ・・意識不明って」

でも大丈夫だそうです、と先ほど医者から言われた言葉を告げた。
病室に籠もってしまった慕丹の両親からも、もう帰っても良い、と言われたが
白珠はそうする事が出来なかった。
それは、責任感を感じてるのと弥々に会えるかも知れないという淡い期待。
その間に白珠は立たされていた。
そしてもう、ぐちゃぐちゃになりそうだった。

「そっか・・」

弥々はほっとしたような顔をして、白珠の横に疲れたように腰を下ろした。
近い。白珠は俯いた。
こんな時なのに、幸せに感じてしまう。
こんな時なのに、頬は熱く火照る。
どうして私じゃないんだろう。どうして心配されるの、私じゃないの?
どうして。こんな顔させてるの、私じゃないんだろう。

「ごめんなさい・・私のせいかも・・」

白珠は俯いたまま、いつもの元気が1パーセントも無い声で呟いた。
それは本当に思っている事だった。
私が立ち止まっていれば、一緒に歩いていれば。
微量でも、
消えてしまえなんて思わなければ。

「何言ってるの・・?宮井さんのせいじゃないよ」

弥々の優しい声が降ってくる。
白珠は思わず顔を上げて、隣に座る弥々を見た。
弥々の真っ直ぐな黒い目。それに映っているのは自分だけだった。

「私のせいだよ」

かも、から確定に変わった。
そうだ私のせいなんだ。私のせいで、三ツ井慕丹は車にはね飛ばされた。

「私が消えてしまえなんて思ったから」

気付いたら、両手に、慕丹から受け取ったリップが握らされていた。
私のでは決してないリップ。
ピンクの、可愛い。弥々が私のために拾ってくれたリップ。
ぼたぼたと涙がこぼれ落ちてくる。もう限界だった。
宮井白珠は、慕丹がはね飛ばされて悲しいより、弥々に会えて嬉しいの方に歩き出していた。
弥々は驚いたような顔をした。目を丸くして、こちらを見ている。


「だって私、」


また だ、


また何かが無惨に壊れてしまう音。


あっけなく、

あっけなく、



壊れてしまう、       音。




わがままでいい。
残酷でいい。

ただ、
いつも明るいあなたで居て欲しい。

後ろめたくても、
優しくしてくれるなら。

優しいのなら、それでいい。

真っ黒に染まった心を抱えていても
私に微笑みかけてくれるなら。

笑って欲しい。
笑って欲しい。


だけれどあなたは今、私の目の前で泣いている。
誰かに傷付けられて泣いている。


「・・まぎ・・どうしよう・・私・・」


ああ、いいの。あなたが笑ってくれるなら。

私だって、
わがままで
残酷なの。


「大丈夫・・?」

隣に座り、鼻を啜っている白珠にまぎはハンカチを差し出した。
白珠は、こくこくと頷きながらハンカチを受け取る。

「ごめんね・・まぎ」

突然家のベルが鳴り、まぎが慌ててドアを開けると
そこには涙を浮かべた白珠が立っていた。
まぎの部屋に通された白珠は泣きじゃくり、ようやく落ち着いてきた所だ。

「いいよ。別に」

ハンカチを目に押し当てている白珠を見つめながら、まぎは返す。
白珠は、涙を浮かべながらも微笑むという矛盾した表情を零した。

「えへへ・・ふられちゃった。」

白珠の言葉に、まぎは目を見開いた。
ふられた、って・・弥々に・・?
まぎはそっと白珠の背中に手を回した。
どういった経緯か分からないけれど、白珠が凄く可哀想に思えたからだ。

「分かってたのに・・ね。」

紛れもない苦笑。
落胆と、絶望と、それでもなあきらめが混ざり合った変な。
変な、色。
ついさっきまで、私が浮かべていたかも知れない、色。
まぎも同じような顔をして見せた。
これはふり、真実ではない。作ったものだ。

「うん・・」

白珠の頭を撫でる。
明日からは、違う表情が、作らなくても出来るかも知れない。
こんな、
こんな私を誰が悪魔だって言えるの?

今日は、とても優しい気持ちで眠りにつけると思っていた。
もう大丈夫だからね、と嘘をついて帰った白珠を
まぎははっきりと、愛おしいと思ったからだ。
ただ、まだ少し迷っていた。
忘れてしまうのは怖いくせに、
忘れなきゃ先に進めないって。誰かが呟き続けるから。
変わる時には、何かを捨てなければ、と。

だからきっと
綺麗に、優しく忘れられると思っていた。
狡い事かも知れないけれど
志緒の代わりに白珠を好きになれば、と。
自分を貶しながらそう考えていた。
そしてそんな風になっていった。

でも今日の夢は
また、真っ暗だった。


「それが好きだって言えるの?」

いつか見たようなのの、続きだった。

「そうよ重ねてるのよ。
酷い?狡い?何とでも言うと良いわ!
だって、そうさせたのは、紛れもなく私じゃない別の誰かじゃない!」

問を投げかける自分に、またもう一人の自分が答えた。
それは、そうなのだった。
こうなろうと思って、楽しく笑うのを忘れたり漢字を覚えられなくなったんじゃない。
本当は、助けて欲しかったのだ。
いつだってこんなしがらみから、逃れられたかった。
こんな、こんな辛い思いなんて
好きでしているわけじゃない。

「私はもっと楽しく生きていたいわ!」

こんな風に願うのの、何がいけないというのだろう。
どんなに高い所に昇ったって、届きもしない太陽に生かされて
必死で手を伸ばして。
与えたくて、与えられたくて。

「誰かを傷付けてまで?」


一体、どうしたいというのだろうか。
ベッドの上で静かに目を覚ましたまぎは、小さく息を吐いた。
じゃあどうしろと、と叫びたくなったが
何かをするにも、今は力が出ないような気がして
キュッと唇を噛み締めるほか無かったのだった。

何もかもが右から左へ、左から右へ、流れていくようだった。
ここ数日のハッキリとした記憶がない。
たまにハッと、時間や自分の事を思い出すだけで
後はぼーっとなっていた。
こんなのを、生きている、なんていうのだろうかと苦笑したくなる。
毎日ぼーっとしているのに、酷く疲れて溜まらないのも。
碧木は溜息を零した。

泣き出しそうな声で、弥々が電話してきたのが
つい三日ほど前だっただろうか。
電話の理由は、慕丹の事故、なのだが本人はぐちゃぐちゃしていて
自分でもよく分かっていないようだった。

慕丹の事が心配で溜まらないハズなのに
病院には弥々を慰めに走ったようなものだった。
病室の前の椅子で俯いていた弥々は、酷く疲れたような顔をして
碧木を見るとほっとしたのか、少し泣き出しそうになっていた。

「三ツ井さんは」

相変わらずの白さに嫌気を感じながら、碧木は呟いた。
容態なんか、わざわざ聞かなくたって想像はついていた。

「・・大丈夫だって」

弥々はそれだけ呟いて、縋るような目で碧木を見た。
そんな目から、逃れることが出来ない。

「お前・・大丈夫か」

こんなの、舞台の上だ。
きちんと書かれた『良く出来た話』をただ、台本通りに読んで。
苦笑したかった。出来るなら、誰も予測の出来ないアドリブを、してやりたかった。

「・・・碧木・・俺・・」

弥々が泣きそうな声を出した。
碧木は両手を握りしめた。指先が白くなるほど、強く。

「宮井さんに、」

閉じ込めていた苦笑が、零れた気さえした。


教室が、オレンジ色に染まっている。
ようやくそのことを認識して、碧木は辺りを見渡した。
いつの間に授業が終わったのか、教室の中には自分以外の誰もいなかった。
碧木は席に座ったまま、教室の中を見つめた。

「・・頭が・・痛い」

呟いて、頭が痛いような気がして机に凭れるように頭を付けた。
もっとハッキリしていたらいいのに、と思う。
誰が悪者で、誰がヒーローで。
そんなものが生まれた時から決まって、いれば。
こんなに思い悩むことはない。
悪者は切って。ヒーローは祭り上げられて。
そしたらどろどろするものは無くなるのに。
恋だの何だのって悩まなくてもすむのに。

「痛・・う」

苦笑というより、大声で笑い出したかった。
でも、喉に引っかかった嗚咽を飲み込むのに必死だった。

「あれ?碧木?」

不意に声が聞こえて、碧木はそのままの状態でそちらを見た。
いつの間にか、ラスが教室のドアの前に立っていた。

「・・大丈夫・・・か?」

ラスは不安そうな声色を出して、碧木に近寄った。
碧木は顔だけを上げてラスの顔をジッと見た。
こいつの事なんか、全く考えてなかった、と思い出す。
そしてそれがおかしくて、碧木はくすくすと笑い出してしまった。
ラスは意味が分からない、と言ったようにぽかんと口を開けたままで。
そんな顔もおかしく感じて、碧木はまた更に笑ってしまった。

「???」

ラスが不思議そうな顔をする。
碧木はその顔を見て笑いながら、ああ、と思った。
ああ、きっと今ほっとしてるんだ、と。
笑ってる内に涙が出て来た。それを見てラスがまた焦り出す。
笑った。泣きながら、笑った。
飲み込んだはずの嗚咽が、また出て来てしまった。
でももう、気にもならなかった。
どうでも良かった。

「どうでも・・良い事なのになぁ」

今だけは、涙がこぼれるから。
明日からは、
多分、

大丈夫だから。

こんなに泣いたの何時以来だろう。
ぼんやりした頭でそんな事を考えた。
そして思い出した。
泣くと腹が減って、泣くと頭痛くなるんだなと。
それでもどこか、清々したような気がして嫌だとは思わなかった。

「大丈夫?碧木」

足を引きずるように歩く碧木の顔を、心配そうにラスが覗き込む。
碧木は疲れ切ったような顔でラスを見上げた。
この男はこんなに情けない顔だったか、と苦笑しそうになった。

「大丈夫じゃない」

嗚咽を抑えながら呟いた。
するとラスが、えー!、と焦り出す。
よっぽど俺の顔が大丈夫じゃなかったらしいと思いつつ、笑った。

「嘘だよ」

本当は、もう大丈夫。
何もかもがばからしくなったと同時に、
何もかも嫌だったわけじゃないと思い出した。
それもこれも、いつも突然現れるこいつのおかげかも知れないと。

「もう・・悪い冗談は良くないヨ!碧木!」

少し苦笑混じりに、ラスは笑った。
・・あ。そういえばこいつと話すの、久々だ。
碧木はラスを見つめた。
傷付いたとか、傷付けたとか。
もう、どうでも良くなった。

「・・・ごめん」

立ち止まり、ラスをぼんやりと見つめたまま碧木は呟いた。
なんだか酷く、頭がぼーっとなっていた。
ラスも立ち止まり不思議そうな顔で碧木を見た。
ぼーっとなる頭で、一つだけ分かった。

「・・本当に大丈夫・・?」

ラスが心配そうに聞いてきた。
答えないで居るとラスは、うん、と納得したように頷き
碧木をお姫様抱っこのようにして抱え上げた。

「な・・っ」

急に視界が高くなり、碧木は目を見開く。
ごめんごめん家につくまでだから、と早口に謝るラス、にまた笑みを零す。
分かった事が、確信に変わったような気がした。
ああ。多分。

「・・もう・・いいよ」

碧木はやる気泣く呟き、ラスの金髪に指を絡めた。


こいつだったんだろうな。


ああ、情けないコトをしてしまった。
白珠は覚束ない足取りで、暗くなり始めた道を歩きながらそう思った。
そこでまたふ、と思う。
私が情けなくなかった時なんてあっただろうか、と。

情けないくらい弥々が好きで。
情けない告白をして
情けなくふられて、
情けない顔でまぎに会いに行って
情けない言葉を紡いで。
情けなくもう大丈夫だと笑って。

なんだ、いつも通りか。
これはこれで、私の「正常」なんだ。

これはこれで、私の。


白珠はまた、情けない気持ちになった。
仕方ないって片付けていく他ないんだろうな、とどこかでは思いながらも。


次の日、白珠は学校を休んだ。
まぎは白珠が居ない所為か、どこかしんとした教室を見て
まあ当たり前か、と思った。
思ったけど、どこか期待をしていた自分がいたことに気付いて苦笑したくなった。
白珠なら、泣き腫らした眼で空元気な笑顔をふりまいてくるだろう、なんて。
ちょっと酷い話だったかな。

その次の日、白珠はまぎが前の日に期待したような
泣き腫らした眼で、空元気な笑顔を振りまいていた。

「おはよう!まぎっ」

いつものように明るく声をかけてきた白珠に、
まぎは自分も同じように、いつものように挨拶を返した。
声も少し枯れていて、眼ももちろん腫れていた。
それでも白珠は、まぎが思っていたよりも落ち込んでなどいなかった。
彼女は自分とは違う、それを重々思い知らされた。

「・・一昨日はありがとうね」

ぽつ、と小さな声で白珠が呟いた。
まぎは、うん、と自分も小さな声で返した。

「もう大丈夫なの・・?」

恐る恐る聞くフリをして、白珠を凝視した。
少し戸惑いながらも、うん、と頷く白珠を。
きっと大丈夫なんかじゃ、ないんだろうけど。
そっかと返して前を見る。
遠くに余り元気のない、弥々が見えた。
まぎは大声で、笑い飛ばしてしまいたくなったのだった。

私はあの日から狂ってしまったのよ。
なんて、悲観するつもりはない。

ただ、志緒が好きだった。
ただ。ただ。優しい志緒が好きだった。
そしてそうとも言われた。

まぎが、


「まぎが 好きだよ」


溺れて何が悪い。
舞い上がって何が悪い。

消えないから抑えきれなくて、
吐き出て嗚咽が込み上げたってそれはちっとも痛くも悲しくも無かったのに。

なのにどうして。


「まぎが      」


消えてしまったら。
好きだという思いが急に痛くなる。
吐き出て嗚咽が込み上げてきて、それが苦痛で溜まらない。


志緒、 志緒っ・・!

どうして、
どうして消えてしまったの。

どうして私を置いていくの!


嘘だといえ。 夢だといえ。
ドラマか映画か何かだと。


でも志緒は、いつまでも写真の中。



消えてしまえば もう。



「置いてかないでええ・・っ!!!」



あの日から、私という名の生物が出来上がっていったのかも知れない。

初めて日本に来たとき。
まだ小学校にあがる前。
どこそこを歩く人間は、今まで住んでいたとこよりも
私と変わらない容姿の人間の方が多くて。
それが逆に違和感を感じてしまっていた。

私は日本語を覚えるのに必死で、途中からそれすらも放棄してしまった。
つまらない。
母親も父親も仕事仕事。
預けられていた祖母も、日本と外人のハーフの私にはあまりいい顔をしなかった。

つまらない。
つまらない。

どこにいたって同じなのに、ここにいるからいけないんだ、と。
思い続けていた。

そんな時に出会ったのが、志緒だった。

志緒はいろんな事を教えてくれた。
日本語も、遊びも、漢字も。
誰も教えてくれなかった事を、志緒だけは教えてくれた。
楽しい事も、嬉しい事も。

志緒、志緒。私は、絶対戻ってくるからね。
あなたに逢いに戻ってくるからね。

そう約束して、私は外国へ戻った。


そして数年。
私達はまた再会を果たして
お互い抱えていた思いを打ち明けて、そのまま幸せ色に溶けてしまったのだけれど。
それも束の間だった。


志緒は世界から消えた。

私がいた国にも、日本にも。
どこを探しても見つける事は出来ない。


私はそれ以来、誰かに依存しようなどと思わなかった。


彼女が私の肩を叩くまで。


中学校に入ったばかりの時、私は誰とも喋らず一人で座っている事が多かった。
本の世界に逃げてしまったり、遮断された窓の外の世界に思いをはせたり
同級生からは、変な奴だ、と思われていたに違いないけど
そんな事はどうでも良くて、私は早く時が過ぎればいいと思っていた。

「まぎ・・お前もっと女子と楽しくお喋り〜とかしたら?」

隣のクラスの志緒は、休みの度にやってきてくれた。
志緒には沢山友達が居たけど、それでも志緒は来てくれた。
私はただそれだけが楽しみで、ただ志緒がいれば良かった。

「必要・・ない。私、あんまり・・日本語・・喋れないから」

そう呟くと、志緒は決まってちょっとむっとした表情をする。
そんな顔をも好きで、わざと言ってるんだろうな、と私は自分にそう思っていた。

「嘘。ちゃんと喋れるくせに」

そう言って私の頬をちょっとだけつねって、後もっと笑え、と言う。
志緒の前でも上手く笑えない私は、うん、と言うだけで
それを返す事はあまりなかったけど。


「野々斗さん!」

学校で志緒以外の誰かに声を掛けられたのは、初めてだったかもしれない。
後ろから肩を叩かれ、そう言われ、私は目を丸くした。

「ねえ、一緒に行こうよ」

その時、初めて白珠に会った。
会った、というより認識した、と言った方が良いかもしれない。
移動教室の途中、友達の多い白珠は寄りによって私に声を掛けた。

「・・どうして?」

クラスメイトに興味は無かったが、白珠が人気者だと言う事はイヤでも解った。
白珠の後ろから、どうして野々斗なんかに、という女子の目が飛んでくる。

「え・・どうしてって・・」

白珠は少し困ったように口ごもった。
偽善者なのだろう、と思った。私が一人でいるのが可哀想だから、と。
でも暫くして、白珠は微笑んだ。

「私が声かけたいなって思ったから」


きっと、そういう人間も居るんだろうって諦めのように思ったのを覚えてる。
白珠は、私と違う。私のように、他の誰とも違う。
だから私なんかに声を掛ける事だって出来るんだろう、って。

いつの間にか私は、白珠に手を引っ張られるように歩いていた。
その時から、日常、というものがどうしてこんなに楽しいのだろうと感じるようになった。


「まぎちゃんってさぁ、志緒くんと付き合ってるの?」
「っ・・え?」
「だっていつも一緒にいるじゃん」
「えーと・・うん・・多分・・」
「まーぎっ」
「!?」
「あ。志緒くん」
「何話てんだ・・?ってどうしたんだまぎ。」
「えっへっへ〜なんでもないよーねーまぎ?」
「え・・あ・・うん・・」
「なんだそれー」


私が居て、志緒が居て、白珠がいて。
どうしてそんな当たり前の事が、いつまでも続けと願う事が悪い事なんだろう。
楽しい事があればあるほど、明日も明後日も、大人になってもそんなでいようと思うのに。

ずっとずっと、一生そうであろうと思うのに。


「まぎ!」

白珠は、志緒の友達の碧木と共にやってきた。
血相を変えているのは、私も二人も一緒だった。

「志緒・・は?」

白珠が、恐る恐る聞く。
何から何までが一瞬で、私は小さく笑う事しかできなかった。

「知らないよ」

笑った後で、それも無意味で虚しい事だと思い知って
次は両手で顔を覆った。

「知らないよ・・っ!!!」

ただ、願っただけなのに。
このままずっと一緒だと、願っただけなのに。

その時、目の前の真っ白なドアが開いた。

「・・志緒は・・?」

碧木が呟く。
私は顔を上げる事も出来なかった。
聞こえてきたのは


「        」



ただ、願っただけなのに。








死んだのは、多分私の心だったと思う。

どんなに体が衰えても、生き生きした心を持っている人がいるように
私の体は綺麗でも、骨だけになった志緒の魂には勝てる気がしなかった。
いなくなって初めて思い知った。
死んでしまって初めて思い知った。

どうして私はこんな綺麗な生き物を愛したんだろう。
それでも悲しいのは変わりない。
どんなに無意味で虚しくても。

彼が綺麗だろうが汚かろうが。


どうしてこんなに綺麗な生き物は、
愛されなかったんだろう。


私の心はまた遠くへ行った。
志緒がいた頃は、まだ自分でも連れ戻せるところだったのに。
もうそれも出来なくなってしまった。
自分でも分からない所へ心が行って、それはきっと死んでいるという事なのだろうと思った。

眠れないし、起きれない。
そんな日々が続いた。


「・・まぎちゃん」

何も通さなくなった耳に、久々に声が響いた。
白珠は不安そうに私の顔を覗き込んで、無理したように笑った。

「もう夕方だよ。帰ろう」

さっきまで朝だったのに、瞬きをしたら夕方になった。
そんな事実をいちいち実感するわけでもなく、私は無言で席を立った。

「ねえ」

鞄を持とうとした時、白珠が肩を掴んだ。
私は振り返り、ぼんやりとその酷い顔を見た。
同じ顔?もっと酷いかも知れない。そんな事を思った。

「笑ってよ」

涙で溜めた目を細めて、白珠は笑った。
私は手に持った鞄を床に落とした。
その時は気付かなかったけど、多分私は
志緒を見たんだと思う。


「志緒が、」


居なくなった事とかそれもだけど
返せなかった事を何より一番悔いた。
あんなにもらったのに、あんなに教えてもらったのに。
どうして私は何も返してやれなかったんだろう、と。


「志緒が、好きだよ・・」


誰でもなくそうだよ、と言えば良かったとか
もっともっと笑ってあげれば良かったとか。
どうして今頃になって思いつくんだろう。

涙が止まらなかった。
それでも、笑った。今頃だけど、ねぇ。笑ったよ私。


救われたのは、ただの私の心だけだった。

自分を綺麗な人間だと思った事は無いけれど、
こんなにも汚かったのだろうかと恐ろしくなったのを覚えてる。
私はただ歩いているだけなのに、
ただただ、自分の行きたい方へ、たまにそっちじゃないでしょと怒鳴られながら
歩いているだけだったのに。

汚くなっていく。
恋をして、それを知った。


でもそれも終わり。


誰かを傷付けて、自分も傷付くようなものなんか
いらない。

私には、要らない。


そして私はまた、必要なものを探すんだ。



私の生活が、終わった訳じゃないんだし。




「まぎ!帰ろ〜」

日直日誌を書いていたまぎは、肩を叩かれて顔を上げた。
微笑む白珠を見上げ、うん、と頷き日誌を閉じて立ち上がった。

「あの・・これ出して来なきゃいけないんだけど・・」

鞄を持って、まぎは日誌を両手に呟いた。
白珠は微笑んだまま、いいよ一緒に行こう、と返して歩き出した。


帰り道は、オレンジ色に染まっていた。
そういえばこの鮮やかなオレンジを、セピアのように暗い色だと思った事が一度だけあった。

「・・まぎ、ごめんね」

不意に声を掛けられて、まぎは顔を上げた。
そして隣の、少し俯きがちの白珠を見た。

「どうして?」

考えもせずにまぎは聞き返した。
考えなくても、謝られる事なんか何もされていない。

「志緒君に・・、まぎをよろしくって言われてたの・・私」

白珠の言葉に、まぎは一瞬立ち止まりそうになったが
止まらずに歩いた。
どことなくそんな気はしていた、俺に何かあったらよろしく、って言ってそうな。

「白珠は、よろしくしてくれてるよ」

まぎが言った後に、白珠は苦笑を零した。
その苦笑をまぎは、自分が間違った日本語を使ったからだと思った。

「違うの私・・まぎの事好きなのに」

苦笑したまま白珠は泣き出しそうな声を出した。
まぎはとうとう立ち止まってしまった。

「ごめんね・・まぎ・・っ」

両手を握りしめて、白珠は謝った。
まぎはただ突っ立っていた。
分からないでも無かったけど、それを認めてしまったら自分が壊れてしまうような気がした。
ああ、やっぱりそうだ。
まぎは心の中で白珠に謝った。

「・・白珠・・私も白珠が好きだよ」

会話の中にも、心の中でお互いが思っている事にも
きっと汚い物なんか微塵もない。
私達はただ、生きているだけだ。

「帰ろう、白珠。」


「・・大丈夫?」

まだ少しふらついているような気がする。
弥々は慕丹を気遣ってそう声を掛けてきた。
普段と逆だ、と思いながら慕丹は、うん大丈夫、と返した。
無事退院出来ても、身体がまだ少し痛い。

「無理しないでね」

優しい声色で呟かれるのを聞きながら、慕丹はどこかで弥々を呪った。
そして、自分も。
本当は気付いていたのだ。白珠の弥々に対する好意も。
それに気付かずに無闇に優しさを振りまく弥々が、慕丹は憎らしかったし
気付いてるくせに微笑みかける自分も憎かった。
ごめんね、とかそういう言葉では当てはまらない。
懺悔や後悔とかでは無いのだ。
ただもっと真っ白で、それでも真っ黒いものだ。

バス停に向かう途中、見慣れた背中が見えた。
あ、という顔を弥々がした。
あの背中を追いかけて、私は車に吹っ飛ばされた。
しかし慕丹はもちろん、恨んでなどいなかった。

「先輩」

迷わず慕丹は声を掛けた。
二つ並んだ背中が同時に振り返った。
白珠とまぎだった。弥々が、え、という顔を慕丹に向けたが慕丹はそれを無視した。

「あ・・三ツ井さん・・身体は大丈夫?」

白珠も、え、という顔を一瞬したがすぐに心配そうな顔になった。
慕丹は微笑んで、はい。お陰様で、と返した。
自分でも嫌な奴だと思うが、この際気にしない。

「色々ご迷惑かけてしまって・・すみませんでした」

ぺこりと頭を下げる。迷惑を掛けたのは本当だ。
まあでもそもそも悪いのは歩道に突っ込んできた車なのだけれど。

「ううん・・」

白珠はちらりと弥々の方を見て痛そうな顔をした。
ざまあみろ、と思ったわけではないが慕丹は自分の立ち位置に自分自身で酷く嫉妬した。
しかし、そんな白珠の腕を隣で黙っていたまぎが取った。
そして慕丹の方を見た。

「Will you be beautiful?」

綺麗な発音でまぎはそう言った。
慕丹は目を見開いた。

「・・お、お幸せに」

まぎに触発されたかのように白珠は叫ぶように言って、踵を返した。
あっという間に遠ざかっていってしまった二人の背中を呆然と二人は見つめていた。

「・・どういう、意味?」

英語に疎い慕丹は小さな声で呟いた。
弥々も苦手だったのか、さあ、と返した。
その後二人で、笑い合ったのだった。


「まぎ!まぎ!」

さっさと歩いていくまぎの背中を白珠は追いかけた。
ようやく追いついて、並んで歩く。
息が少しあがってしまった。

「・・何であんなこといったの・・」

自分も触発されて、お幸せに、なんて皮肉を言ってしまった。
白珠は少しだけ反省して、まぎの顔を見る。
まぎは真っ直ぐ前を向いたまま、怒ったようにこちらを見もせずにいた。

「別に」

素っ気なく返すまぎに、溜息を零す。
しかし突然まぎが足を止めたので、白珠も慌てて立ち止まった。
まぎはこちらをようやく見て、そのまま目を逸らさなかった。
昔は誰かと目を合わせるのが怖いと言っていたまぎは、
いつからかこんなに真っ直ぐと見てくるようになったのだろう。
白珠の方が臆して、目を逸らそうとしてしまう。

「ごめん」

不意に謝られて白珠は、えっ、という顔をした。
改めて謝られると戸惑う。

「いや・・私も・・えっと」

そこで突然おかしくなって、白珠は吹き出した。
ああもう、どうでもいいじゃないか。


「帰ろう!」


夕方セピアの帰り道。

何も変わらない事だけが大事じゃない
そんなの嘘に決まってるけど

僕らはちょっとずつ。
ちょっとずつ。

泣きながら喚きながら
笑いながら叫びながら

変わることに慣れていく。


それは多分虚しい事じゃないから

言い聞かせながらオレンジを見よう。


時には誰かに偏りたいのと
泣いたって良いから。



その時は抱きしめるから。





「白珠、英語!教えてあげる!」






end





あとがきという名の裁判所。

どうも黒乃です!
えーまずここまで読んで下さいまして、本当にありがとうございますorz
久々に学校・青春系に挑戦してみようと思い立ち書き始めたのですが
毎度の如く・・という雰囲気になってしまいましたね;

「夕方セピアの帰り道」は某掲示板にて連載させて頂きました、三作目になります。
2009年〜2010年まで連載し、三部作に分けてメルマガにて配信いたしました。
掲示板の方でも沢山の支援・支持を頂き本当に有り難うございました。
連載物を始めるときは、毎度毎度「大丈夫かなぁ・・終わらせられるかなぁ・・」
・・と思いながら書き始めるので、暖かい声援には凄く凄く救われています。

大体掲示板連載では「女子二人主人公」というのが多めだったのですが
この前の作品、「魔法使いと殺人鬼」は珍しく男二人主人公で
唯一の女子キャラ、クロエが割と人気だったので・・ああやっぱ女の子か・・orz
という事でまたもや女子二人主人公にしてみました。
今までは友情が多めだったのですが、どろどろ恋愛も良いじゃないかという事でこのような形に。
最初はまぎ→白珠→弥々→まぎという三角関係だったのですが、志緒や慕丹を入れた事により
更に複雑にしてみました・・笑
ラス→碧木はしょうがないですね。意図してないのにこうなってしまうのですから・・笑
今思えば、もう少しラスとまぎが絡んでも良かったかなと思ったり思わなかったり。

今回特に力を入れたのが、白珠さんなのですが・・。
「恋する力は切なくて恐ろしい。」というのを身をもって経験?しているので
リップの場面とか書いてて怖いと自分でも思いましたw
でも可哀想だな。とも思います。
そして、弥々と話した〜っ、とはしゃぐ白珠に変な蟠りを感じるまぎも可哀想だな・・と。
一応、まぎは白珠と志緒に沢山恩があるので、返したくて返したくて溜まらなくて
でも志緒には結局何もしてあげられなくて、じゃあ白珠に!
でも辛い恋愛をしている白珠が何か引っかかる。
みたいな感じかなと思います・・今回の話の底?はorz
一応昔のまぎと志緒→慕丹と弥々っていう感じですので、
まぎは慕丹にあんたは美しいのか、と聞いたのだと私は思ってます・・。
お幸せに、も。
慕丹と弥々は卒業したら即結婚しそうですけどね。(意外と弥々長生きしそうだし)笑

今回色々と過酷な所も書いて、同時期にもっと酷い小説も書いてたりしたんで
全体的にくらーい事になっていたかもしれませんが・・(毎度の事かな?)
青春ってこんなもんでいいじゃないかと思ったりもしました。
みんな、それぞれだよね・・・っていう恋愛物が書けて良かったです。

最後になりましたが、長々と愛読頂きありがとうございました!
これからも沢山、良い作品を書いていけるように精一杯頑張りたいと思いますっ!

ではではこの辺でっ
アディオスディナー☆

黒乃 桜